昨年、担保・執行法制度を中心とする民事法の改正があり、その中でも特に不動産業界に大きな影響があると思われるのが「短期賃借保護制度の廃止」です。
短期賃借保護制度は、抵当権設定後の賃貸借を短期に限って保護する制度でした。(旧民法395条)
抵当権は、担保「物権」です。物権である抵当権の設定登記がなされた後に、成立した権利は、抵当権に劣後するのが原則です。したがって抵当権の設定登記がなされた後に設定された賃借権は、原則として当該抵当権が実行された場合、抵当権者には対抗できません。
この原則に対する重要な例外が短期賃借保護制度でした。
すなわち、抵当権の設定登記後に設定された賃貸借であっても「短期」((1)山林は10年、(2)山林以外の土地は5年(3)建物は3年、(4)動産は6ヶ月、民法602条)であれば、抵当権実行後、抵当物件の買受人に対して、賃借権を対抗できたのです。
このような例外が設けられた理由は次の通りでした。
抵当権という権利は、抵当権者である債権者には、債務者の経済的破綻といういざという場合に備えて、その物の価値をあらかじめ把握させる一方で、そのいざという場合に至るまでは、抵当権を設定させた債務者に、その物の利用を認めるという本質を有しています。(もちろん、いざという場合には、抵当権を実行することにより価値を現実化させることになります)
ところが、抵当権を設定した後に、債務者が不動産を他人に賃貸するという利用を行いたい場合に、すべての賃借権が抵当権に対抗できないとしたのでは、誰も安心して借りることができません。
そこで、抵当権者である債権者を害しないような範囲、すなわち「短期」に限って抵当権者に対抗できる賃借権の設定をすることが認められたのです。この賃貸借保護制度は、立法者が想定した健全な利用ではなく、近時、不正な輩による強制執行妨害の有効な手段として濫用されるようになっていました。
このような執行妨害目的の短期賃貸借を特に詐害的短期賃貸借と言い、その特色は(1)無断転貸承諾特約つき、(2)賃料全額前払い済み、(3)異常の高額な敷金預託済み、といったものが典型です。このような詐害的な短期賃貸借が設定されている抵当物件の場合、競落価格が著しく下がる以前にそもそも買受人自体が現れないことも少なくありません。また、当該短期賃貸借権により占有をしている者から法外な価格の立退料を要求されることになります。
こうした背景があったことから、これまで実務上、抵当権者による妨害排除を法解釈を通じて認めるなどの工夫がなされていましたが(最高裁平成11年11月24日判決)、今回の改正で短期賃貸借保護制度自体を廃止することにより制度上のゆがみを解決したわけです。