木造二階建てのアパートを所有しています。先日、2階の借家人Aから「雨漏りがひどいので修繕してほしい」との要求がありました。私としては、「たかが雨漏りくらい」と、放置していたところ、「修繕してくれないのなら、今後、家賃を支払わない」と通告してきました。私は内心、「そんなことをしたら、家賃不払いで借家契約を解除して、Aを立ち退かせてやる」と憤慨していますが、こんな私の考えは認められるのでしょうか?
民法第606条は、「賃貸人ハ賃貸物ノ使用収益ニ必要ナル修繕ヲ為ス義務ヲ負フ」と規定して、家主に原則として賃貸建物を修繕する義務のあることを明言しています。
しかし家主のこの義務は、貸室にちょっとした故障があっても責任とされるものではなく、裁判所は「その故障が借家人の居住に著しく支障を与える場合に限って、家主に修繕義務がある」とする考え方が支配的です。
本件の場合は<雨漏り>ですが、それがまれな強い台風に伴う豪雨のようなとき、一部に少し雨漏りがするとかの場合なら、まだ家主に修繕義務は発生しないでしょう。これに反し、通常の降雨の場合でも、雨漏りがひどくて、借室内に居ても濡れてしまうとかなら、家主に修繕義務が生じてきます。
さて、家主に修繕義務があるのに、家主がこれを放置した場合、まず家主の方に借家契約上の義務違反が生じてきます。
そこでこの場合、借主の方に「家主さんの方が、自分の義務を履行しないのなら、私の方も義務=家賃支払い義務を履行しません」といった<同時履行の抗弁>(民法533条)が認められるか?です。
裁判所、学者間にいろいろな意見がありますが、現在の支配的考え方は、「かかる場合、借主側は同時履行の抗弁権を行使して、家賃の支払いが拒める」とされています。
従って、本件の場合も、
なら、Aは家賃の支払いを拒める、ということになりましょう。
ではさらに、Aのこの家賃支払い拒否に対し、家主は、Aとの家賃不払いを契約違反として、Aとの借家契約を解除して、Aに立ち退きを要求できるかです。
Aに<同時履行の抗弁権>があって、Aがこの権利の行使として家賃を不払いしているのであれば、Aの家賃の不払いは人Tの権利行使ですから、契約違反とか、契約義務不履行とかにはなりません。
従って家主はこれを理由に、Aとの借家契約を解除してAに立ち退きを迫ることができないわけです。
また仮に、Aに同時履行の抗弁権が認められないとしても、「その賃貸建物が借家人の使用収益に適する状況ではない場合には、契約期間中であっても、借家人は家賃支払い傷務をふたんしなくてもよい」とするのが、裁判所の以前からの考え方です。
となると、かかる考え方からしても、Aの家賃不払いは、契約違反とか契約義務不履行に当たりませんから、家主としては、その理由でAとの借家契約を解除して、Aに立ち退きを迫ることはできないことになります。
従って、借家に故障があって、そのため借家人がその居住に支障をきたしているような場合なら、その理屈付けはともかく、借家人の家賃不払いは正当化されることになるわけです。もっとも、借家人が同時履行の抗弁権で、家賃不払いの責任を免れるためには、契約解除前にこれを援用しておかねばならないと考えられています。
では、本件の雨漏りが、借室の一部だけに限られ、降雨中そこにバケツの一つでも置いておけば、借室居住に差し支えないとかの、ごく軽微な場合はどうでしょうか?
この場合は前述の通り、家主に修繕義務がありませんから、家主が修繕要求に応じないからといって借家人は家賃不払い=同時履行の抗弁権で対抗するわけにはいきません。かかる場合、借家人はまず自分の手間ヒマ費用でその雨漏りを修繕して、その費用を<有益費>として家主に償還請求することになるでしょう(民法608条)
そして、これが本来家主の負担に属する必要費であれば、借家人は直ちに家主に対し償還請求ができます(同条1項)。
では、修繕義務は家主にあるとされる場合だが、その故障により、借家人の居住の一部に支障が生じているようなとき、借家人は家賃全額の不払いはできないにせよ、一部の支払を拒否できるでしょうか?
一部の支払い拒否なら許されると解されていますが、問題はその一部の範囲を超える支払い拒絶は契約不履行=家賃不払いになるとされています。となると、実際には「どの範囲までが認められるのか?」となり、支払い拒否の全額が判然としません。しかも、いい加減な金額の一部支払い拒否をやると、賃料不払いで借家契約が解除されますから、うかつにはこの一部不払いで対抗できません。
こんなこともあり、借家人の居住の一部に支障が生じているような場合は、一部にせよ、同時履行の抗弁を認めず、信義側から、家賃不払いを否定する考え方もあります。
本件雨漏りが、天災(地震とか)によって生じた場合も、家主に修繕義務があることは当然とされていますが、では、借家人の責任で生じたような場合にはどうでしょうか?
いろいろ意見が分かれる問題ですが、通説的見解は、この場合にも家主に修繕義務があるとしているようです。但し、「借家人のせいで生じた故障まで、なんで家主が修繕義務を負うのか?」といった強い反論も有ります。
以上は、民法606条から、借家の修繕義務派当然家主側になるという前提での問題究明でした。しかし、借家契約のときの特約で、「建物の修繕は借家人が負担する」とかいった特約を結ぶことは自由とされています。
では、上記のような特約があった場合、修繕は常に借家人がするのか?というと、必ずしもそうは考えられていません。裁判所などは、上記のような特約は「家主が修繕義務を負担しないというだけのもので、それ以上に借家人に修繕義務まで負わせるものではない」と解しています。
従って、右のような特約がある場合、家主も借家人も義務として借室の故障を修繕しなければならないわけではなく、結局、故障を放置すると困る当事者が修繕するという結果になりましょう。