私が家主のマンションで「ペット可」物件として入居者を募集したところ、おかげさまで目下満室状態です。
ところが先日、二階の借家人のAさんから「隣室のBさんの飼っている犬の鳴き声が大変やかましく、その犬が吠え出すと私のところの犬まで吠え出す始末です。しかもBさんのところの犬は深夜でもおかまいなく吠えるので余計困ります。なんとかしてくれませんか?」と訴えられました。
一応「ペット可」のマンションとしてお貸ししているので、Bさんに「ペットがうるさいからなんとかしろ!」とは言いにくく、さりとてAさんからしきりに訴えられるので放置しておくわけにも行かず、困惑しております。どうしたものでしょう?
いくらペット可のマンションとは言え、「ペットのすることには文句が言えない」という理屈にはなりません。「ペットを飼ってもよい」ということは、イコール「ペットの好き勝手してよい」とはならないからです。ペットが度を越えて他人に迷惑を及ぼせば、家主としてはそのマンションの管理上、その飼い主にその制止を求められますし、迷惑損害を被った他の借家人は、飼い主に対し損害賠償も請求できます。(民法718条)
しかしその反面、ペット可の物件であることを承知で入居したのですから、飼われているペットが普通の行動をしたことに対し、いちいち目くじらを立てて文句を言うことは認められません。
例えば、飼い主が飼い犬を外に散歩に連れ出すため、マンション内の廊下を歩かせたのに、「不潔だ」と文句を言ったり、ちょっと鳴いたのに「うるさい」と怒鳴ったりすることなどは認められません。
従って、本件の場合、もしBさんの犬が大きくて、そのほえ声もかなり大きく、しかも頻繁に吠え、かつそれが深夜にも及ぶ等になれば、(1)まず、隣室のAさんがBさんにその制止を求められることは当然ですが(2)家主としてはも、Bさんに「他の借家人の迷惑となるから・・・」と注意や制止を求めることも可能です。
そして、Bさんが家主の注意に耳を貸さず、制止もしないで放任していた場合には、家主はBさんとの借家契約を解除して、Bさんに立ち退きを要求することもできます。この場合、Bさんから「ペット可のマンションとして貸している以上、その吠え声がうるさいぐらいで出て行けとは納得ができない」などの反論があるかも知れません。
しかしこの反論は、「子連れを承知で貸した以上、その子が他に迷惑をかけても、文句を言うな」というのに等しく通る理屈ではありません。こんな場合、親が当然この行動を止めなければいけませんし、子のそんな行動の結果、他人が怪我などの迷惑を被れば、親がその加害に対し損害賠償義務を負います。(民法714条)この理屈はペットの場合も同様です。
以上のように、ペット可のアパートやマンションの場合、ペットの行動と、飼い主である借家人の借家契約との関連が判然としないため、家主としても、ペットに関するトラブルへの対応にとまどいがちです。
従って、「ペット可」物件の場合、家主としては、必ず、借家契約と一緒に「マンション内におけるペット飼育に関する約定書」などの文面を、借家人と取り交わしておくべきでしょう。そうしておけば、その約定の中に当然次のような条項が取り決められますから、家主としてものその対応にとまどうこともなくなります。
「第○条・飼い主は、その飼育するペットが、他の借家人に迷惑損害を与えるような行動をさせてはいけない。
このような条項が約定の中にあれば、飼い主=借家人も、「ペット可」の物件であることを盾しての反論などもできません。
特に上記のような約定をする場合、単にペット飼育に関する取り決めばかりに意を注ぎ、借家契約との関連付けを忘れてはなりません。(前記条項の3項参照)家主とすれば、結局最後は、困った借家人を立ち退かせれば、ペットも一緒に出てゆくわけですから、コトは解決するわけです。
また家主は、借家契約から生じる損害を担保にするため、敷金とか保証金も預かっていますから、ペットによって被る損害の点も特約により、この種の預かり金により担保されるよう約定しておけば、被害の心配もなくなるわけです。
もっとも、借家契約上の保証人にまで、ペットによる損害を負担させるとなると、保証人が「ペット可」の借家契約であることを承知して保証したものではないと、その責任追及は難しくなります。
飼い主=借家人のペットによる家主の被害を確実に担保させるのなら、ペットの約定に関し、借家契約の場合の敷金のように別に保証金を預託させたらどうかと思います。「そこまで借家人に負担させるのは…?」と、家主として躊躇があるかもしれません。
しかし、ペット可のアパート、マンションの場合、そのための貸室の汚れ、いたみとかがひどいばかりでなく、本件のような会計トラブルに巻き込まれたりして、家主側の負担は普通の貸室の場合と比べてかなり大きくなります。
従って、決して「負担させすぎ」などの非難は思い当たらないと思います。もっとも、貸室に持ち込まれるのは、しつけのよい猫一匹だけとか、小鳥一羽だけなら、このために保証金を積ませるのは酷かもしれません。しかし、これに反し、大きな犬とか、猫でも10匹近くとか、また蛇や凶暴なペットなどの場合を考えると、特にそんな場合には相当の保証金を預かる必要が生じてきます。
また、ペットの加害とは逆に、ペットが受ける被害(例えば、他の借家人による被害とか、他のペットによる加害)などについても、家主としての免責をはっきりと決めておかないと、「このマンションの管理が悪かったからだ。家主さん、どうしてくれる」と、とんだとばっちりを受けかねません。
以上のしだいで、「ペット可」のアパート、マンションの借家契約は、家主にとって「ペット、ああいいですよ」とは簡単に頷ける問題ではないのです。ペットに関する約定、そしてこの約定と借家契約と関連付け、ペットのために生ずる損害の担保など、家主としては、いろいろと考えさせられる諸問題を抱え込むことになるからです。