3回にわたり、「競売の仕組み」「想定されるリスク」「物件調査時のリスク」「物件調査時のチェックポイント」について解説を行ってきました。4回目となる今回は、「入札から買い受けまで」についてとりあげる。
競売物件を取得する一連の動きの中では大詰めとなる部分だが、ここで気を抜くと痛い目に遭うことも考えられる。思い通りの物件を落札できるか否かの重要なポイントだ。
物件の現地調査などを十分に行った結果、その物件への取得に問題がなければ、いよいよ入札に向けての戦略を練ることになる。この際、まず考えなければならないのは、「入札金額をいくらにするか」という点だ。
Vol.1で述べたように、入札は一発勝負である。他の入札者よりも高い価格である一方、通常の手法で取得するよりも安い価格で入札を行う必要がある。
では、一体どの程度の価格で入札をすればいいのか?
この点については経験を積み、相場観を養う以外に絶対的な近道はない。ただし不動産競売情報誌やインターネット上には開示物件の最低売却価格と実際の落札価格を記したデータが掲載されていることもある。こうしたものを基に、最低売却価格に対し、どの程度の上乗せをすればいいのか、ということを知ることができる。
一つ目の目安としては「上限は最低売却価格の2倍」だ。
何十件もの入札があるような物件でも最低売却価格の2倍以上で落札されているものは少数。どうしてもその物件を取得したいのならばともかく、そうでない場合には最低売却価格の1.5倍までが目安と考えたほうがいいだろう。
しかしこれもライバルの数次第だ。「築浅」「最低売却価格が安い」「駅から近い」などの好条件、しかも素人目にもわかるような好条件の物件には当然のことながら入札者が集中する。
その一方、人気薄で自分以外に入札者がいない物件ならば最低売却価格と同額で入札をしても落札が可能になる。
ライバルはどの程度の数がいるのか、という点を見極めるためにも物件の現地調査を行う必要がある、というのは前回も述べた通りだ。
またライバルの動向はその物件の債権者である金融機関側の情報からうかがい知ることもできる。
都内のあるオフィスビルを競売で取得したオーナーはこう語る。
「そのビルは10階建てで、私がワンフロアだけ区分所有していました。残り9フロアの所有者が経済的に行き詰まり競売になったのですが、その後、債権者である銀行から私のところに『最低売却価格に10%上乗せした価格で買ってくれないか』と話が来ました。
頼み込んでくるぐらいだから入札者がほとんどいないのだな、と思い、最低売却価格に1.5%上乗せした価格で入札し、落札に成功しました。思ったとおり入札者は私1人でした」
落札価格は1億6300万円。ちなみにこのビルはバブル期には22億円の評価額が下されたことがあるという。
競売物件は一般的な物件と同様に、築浅・駅近・低価格のものの人気が高い。また都内の住宅でいえば世田谷や杉並、目黒などの南西地区の人気が高いのも一般物件と同様だ。そして占有の可能性を考え、もともと賃貸用ではなく自宅・自社用の物件の人気が高い。さらに価格面で5億円以上のものはファンド運用者などが狙うため、入札本数が多くなる。
こうした点を考え、なるべくライバルの少なそうな物件を狙うのが落札への近道となる。
また余談ではあるが、入札に際しては金額はなるべく端数をつけるとよい。
例えば「1億円」ではなく「1億1円」とするのである。競売は1円でも高い価格で入札したものの勝ちだ。この端数の1円が大きく響くことになる。
入札の結果、落札者(買受人)となれば裁判所が定める期日以内に入札金額の残りの8割を支払い、物件の所有者となる。
この残金支払いについても隠れたテクニックがある。
残金支払いには約25日程度(裁判所によって異なる)の期間が定められているが、期限ギリギリに支払ったほうが得をすることがある。
現在入居者のいる賃貸用物件を競売で取得した場合、基本的に前所有者と入居者の間に結ばれた入居契約は落札者が引き継ぐことになっている。したがって、入居者が退去する場合には、前所有者が預っていた保証金(敷金)については落札者がさなければならないことになる。(図表参照)
しかし、もし、残金支払期限中に入居契約が切れ、退去する入居者がいる場合には、その契約が切れた後に残金を支払って自分に所有権を移せば、落札者は保証金を返す必要がなくなることになる。
| 賃借人の入居時期 | 退去時の扱い |
|---|---|
| 抵当権設定よりも前 | 賃借人の立場は保護される。前所有者との契約は買受人が引き継ぐ。 保証金も返還する。 |
| 抵当権設定よりも後で 物件差し押さえの前 |
現在の入居契約期間終了までは立場は保護される。 期間終了をもって退去の場合保証金は返還する。 |
| 抵当権設定よりも後で 物件差し押さえよりも後 |
賃借人は保護されない。買受人は所有権移転後最初の契約更新時に無条件で退去させることが可能 |
また、競売物件の入居者は、オーナーのゴタゴタに乗じて、契約期間が切れても入居をし続けているものもある。残金支払期限中に入居契約が切れる入居者がいる場合には、それを待っているから物件を取得するとよい。もしその入居者が残っていた場合には不法入居として立退き料の支払いや保証金返還などを行うことなく排除することができる。
このように入居者の契約期間が、残金支払期限中に終了する場合には、それが終わってから物件を取得したほうが、その後の金銭的負担が少なくなる。こうした点をしっかり把握しておく必要があるだろう。
また、数日のタッチの差で残金支払期限が入居者の契約期間満了に間に合わない場合もある。この場合には裁判所に「支払期限の延長」を申し立てればよい。「落札者が病気になり金策が不可能になった」などの理由があれば期限の延長が認められることもある。
以上、4週にわたり述べてきたように、競売は仕組みそのものは非常に簡単ではあるが、それを上手に使いこなし、思うように物件を取得していくには細やかなコツやノウハウが必要になる。初心者が入札に参加する場合には、(当社のような)競売コンサルティング会社や弁護士などプロの手を借りたほうが無難といえるだろう。